【特集】 公益法人制度に対する世間の誤解

出口正之
(でぐち・まさゆき 国立民族学博物館教授・元内閣府公益認定等委員会委員)

公益法人制度改革から11年余りが経過するなか、新設の法人数は伸び悩んでいる。その要因は「立法趣旨の取違え」に他ならない。ここでは、公益法人制度に対する世間や行政の様々な誤解を解き、新たに公益認定を目指す法人へのエールを送る-。(2020年4月15日更新)

はじめに

 公益法人制度改革から実に12年目を迎えている。その間、残念ながら、新設法人の数が全くと言っていいほど増加していない。新設の公益法人がゼロの県もある。行政庁の指導監督は微に入り細に入り、「箸の上げ下ろし」の指導から「重箱の隅をつつく」「爪楊枝の上げ下ろし」のような指導に変わったという声も聞かれる。
 公益法人制度の設計に関わった筆者からするとこの事態に責任を痛感するとともに、何とかこの空気感を変えてみなければならないという思いを強くしている。そこで本稿では、社会や行政庁に蔓延する公益法人制度の「誤解」を解いていこうと思う。

Ⅰ 「公益の増進」という立法趣旨に対する誤解

1 不祥事が契機という誤解

 誤解の中で最も重大なものは「立法趣旨に対する誤解」である。ここを間違えるとすべておかしなことになってくる。言うまでもなく立法趣旨は「公益の増進」である。
 公益法人制度改革は不可能と言われた民法改正を伴うものであり、改革の鏑矢かぶらやを放つことはほぼ諦められていた。特定非営利活動促進法も民法には手を触れていない。
<当初の立法趣旨>
 実は、この膨大な作業を行おうと決心した人達は明確に分かっている。当時の内閣官房行政改革推進事務局である。これについては、当事者が自らを「ドン・キホーテ」と揶揄しながらもしっかりと書き残してくれていたのである。平成13(2001)年1月から平成15(2003)年7月まで、当時の内閣官房行政改革推進事務局行政委託型公益法人等改革推進室の初代室長であった小山裕氏は立法趣旨について以下のように述べている。
 「改革の目的を『民間非営利活動を促進する経済・ 社会システムの確立』に置き、公益法人制度改革は、この目的に沿うべく進めるべきとしたのである。この考えは、平成15年6月の閣議決定『公益法人制度の抜本的改革に関する基本方針』にも貫かれている。時として、『民間非営利活動の推進』という目的は後から出てきたものの如き論調も目にするが、当初からの揺るがぬ考えである」(小山裕[2009]129頁。下線部筆者加筆)。
 これは立法趣旨の主眼が「民間非営利活動を促進する経済・ 社会システムの確立」=「公益の増進」という理念すなわち「理念的積極論」に立脚したものであることを強調するとともに、その取違いに注意を喚起した極めて重要な一文である。この注意喚起は改革10年を経てもう一度関係者全員が噛みしめるべきものであろう。
 「『民間非営利活動の推進』という目的は後から出てきたものの如き論調」というのは、「公益法人の不祥事が先にあり、その不祥事をなくすために改革が行われた」という考え方である(注1)。つまり、出発点が不祥事ならば、不祥事がないように監督を強化しなければならないということになり、目を皿のようにして公益法人の一挙手一投足を行政庁が監視しなければならなくなる。まさに現状はそのようになっていないだろうか。これをここでは「不祥事起点説」と呼ぶことにする。他方で、「公益の増進」が立法趣旨ならば、促進税制を整備し、公益法人が公益活動を行いやすくするように環境を整備することになる。現状の問題のすべての根源はこの立法趣旨の取違えにあるといってよい。
<誤解の原因>
 確かに誤解を受けやすい状況にはあった。天下り法人の不祥事を契機に「行政委託型公益法人等改革」がなされ、その担当部署が当該改革とはまったく別個に公益法人制度改革を提唱したからである。
 しかし、この点も誤解がないようにと、2002年4月に内閣官房行政改革推進事務局が「公益法人制度の抜本的改革の視点と課題」を公表してしっかりと書き残している。「我が国においては、個人の価値観が多様化し、社会のニーズが多岐にわたってきている。また、地域を基盤としたコミュニティは、大都市への人口集中等により、その役割が低下しつつある。その一方で、阪神・淡路大震災等を契機に、民間非営利活動に対する関心が高まり、個人の意識の上で、自ら社会の構築に参加し、自発的に活動していこうとの傾向が強くなっている」(内閣官房行政改革推進事務局[2002]。下線部筆者加筆)と述べ、「阪神・淡路大震災などを契機にした民間非営利活動に対する関心の高まり」がすべての出発点であることを明らかにしている。これをここでは「阪神・淡路起点説」と呼ぶことにしたい。「不祥事起点説」とは大きな違いである。
 そのうえで「国民に対して様々なサービスを提供する主体は、行政部門、営利部門、非営利部門の3つに大別することができる。このうち、行政部門の活動は法律・予算に基づくことが条件となっており、公平・公正を重んじるため、画一的なものとなりがちであり、機動的な対応は難しい面がある。また、営利部門の活動は収益をあげることが前提となるため、採算の見込みがない分野に対応することは基本的にない。すなわち、行政部門、営利部門だけでは様々なニーズに対応することがより困難な状況になっている。非営利部門は、行政部門や営利部門が持つこのような制約が少ないため、一定の分野については、柔軟かつ機動的な活動を展開することが可能である。このような特性を持つ非営利部門は、多様なサービスを提供し、行政部門や営利部門では満たすことのできない社会のニーズを満たし、その結果として社会に安定や活力をもたらす。したがって、個人の価値観の多様化、政府の役割の限界等が指摘される現在、民間非営利活動を促進していくことは、21世紀の我が国社会を活力に満ちた社会として維持していく上で非常に重要である」(内閣官房行政改革推進事務局[2002]。下線部筆者加筆)と、3つのセクター分類に基づく非営利セクターの特質を捉え、理念的にその部分を伸ばそうとする「理念的積極論」に満ち溢れていた。
<現状の再評価>
 小山氏が言うように、上記の観点は閣議決定から立法に至るまで一貫して流れている。立法時の国会では当時の安倍官房長官が「民間のみずみずしい力を公のために生かしてもらう、これは基本的に民間の意思によってやっていくということにするわけであります」という答弁をしていることもこの証左である。
 関係者は今一度、上記の観点から公益法人の現状を再評価していただきたい。立法趣旨を取り違えてはいなかったのか、現状の指導監督は上記の観点と一致しているのかと。

2 主務官庁制度の問題点とは何だったのか

 改革すべき対象であった旧制度における主務官庁制度の問題とは何であったのだろうか?
<いちゃもんを付けて締めさせた>
 主務官庁による設立許可・監督は自由裁量に属するものと言われ、「何でもあり」の状態であった。その問題点の頂点は天下り人事にあったのだが、それ以外にも弊害はたくさんあった。まず、設立許可の申請に当たってどのように申請書を記載すべきなのかといった重要な情報は開示されていないどころか、事実上は許可すべき団体の申請書の中核的部分すなわち設立趣意書、定款、事業内容などは、事細かなチェックを受けていたというか、中には主務官庁が作成したに等しいものもあった。法人の名称、事務所さらには理事構成まで干渉していた。ある政府高官は「どこの馬の骨とも知れない民間の申請があれば、あれこれいちゃもんを付け諦めさせるか自分が転勤になるまで待っていた。特に前任者が許可していなかったものを許可することは嫌だった。ところが、政治家から催促されると仕方なく、処理を進め、OBの1人でも理事に入ってもらえれば、『保険』となるので、そのようにしていた」(某省庁高官)と述べている。
 ほとんどの団体は諦めてしまうが、粘り強く設立を目指して、申請開始から許可まで7〜8年を要することもあったが、実は、主務官庁は書類不備を理由に申請書を受理しない形で多くの時間を費やさせたので、申請書の受理と設立許可との間は、稟議書が回るだけの時間でしかなかったのである。
 理事会で真剣に検討し決定したことを事後に主務官庁にもっていけば、「どうして事前に連絡してこなかったのか」ということは日常茶飯事で、理事会の議論をないがしろにしてきたのも主務官庁であり、どこの法人も理事会は完全に形骸化していた。「異議なし」以外の発言をした理事等が白眼視されるような独特の風土も文化的にすっかりと定着していたのではないだろうか?
 したがって、極論すれば、日本の公益法人は手法の点において多様性にも欠け、叩かれないように叩かれないように活動することにすっかり慣れてしまっていたのである。財産を減らさないことを第一の目的とした「墓守法人」だらけになっていたのもむべなるかなというところであろう。
<安易な行為規制の強化>
 さらに小山氏は改革前の旧主務官庁制度の問題点を以下のように認識していた。
 「民法上監督権限はあるのであるから、公益法人側に何か問題が生じた場合は、権限を行使しなければならない。特に、どこかの法人が不祥事でも起こすと、監督はどうなっている、との大合唱が起きる。そして、そこでとられるのが最も安易な対処法、すなわち行為規制の強化である。つまり、法人の箸の上げ下ろしまでとやかく言うということになり、第2の問題点、何のために監督するのかということにつながっていく。」(小山[2009]122頁)という疑問が改革の契機にもなっているのである。
 小山氏はさらに「不祥事起点説」の危険性を十分に認識していた。「不祥事→規制強化→不祥事→規制強化の繰り返しが何をもたらすかといえば、自由な法人活動の萎縮である。自律的な市民社会においては、民間における公共的活動を助長していくのは行政の大きな責務であるはずだが、ここにはそういった配慮はない。むしろ逆に作用する。」(小山[2009]123-124頁)とまで言い切って、法律に基づく予見可能性の高いものとしての公益法人制度改革のエンジン・キーをかけたのである。
 結果的に、わずかに56条しかない民法の規定が法律の条数だけで関連三法で合計868条に増えている。そればかりではなく、政令、府令、さらに新公益法人会計基準、ガイドライン「公益認定等に関する運用について(公益認定等ガイドライン)」(内閣府公益認定等委員会)(以下「ガイドライン」という。)、申請書の手引きなど参照すべきものが格段に増えた。ところが、現在は、公益法人の不祥事をなくすという点が最上位にくることによって、これらが事細かに指導の対象となっているばかりではなく、一方的に企業関係の専門家、とりわけ会計関係者の発言力が法解釈にまで侵襲することによって、本来非営利法人が有する特質を、企業に見立てた「ビジネスセントリズム」が蔓延することで次項に述べるような変質させてしまったものと思われる。
 以上の点を踏まえ、「阪神・淡路起点説」に基づく「正規の立法趣旨」と「不祥事起点説」に基づく「誤解の立法趣旨」とを組み込みながら現状の具体的な誤解を考えてみたい。

Ⅱ 収支相償と黒字忌避に対する誤解

 誤解の代表例が公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律(以下「認定法」という。)第5条第6号の「その行う公益目的事業について、当該公益目的事業に係る収入がその実施に要する適正な費用を償う額を超えないと見込まれるものであること」(下線部筆者加筆)のいわゆる収支相償規定の誤解である。「収支相償」はその名のとおり、「収支計算」に慣れた法律の専門家である役人が作り上げたのだが、「損益計算」に慣れた会計関係者が解釈を次々と変えたので、大混乱に陥っている。
 法律では「収入」と「適正な費用を賄う額」との関係を規定した条文が、現在では「収益」と「費用」の関係に入れ替わって使用されている。ガイドラインでは「剰余金」というのは「収入」マイナス「適正な費用」の意味で使用されているのに、いつの間にか「収益」マイナス「費用」の意味で使用される。その結果として、当初想定していない「赤字・黒字論」が跳梁跋扈ちょうりょうばっこしているのである。ここに「黒字を出してはダメ」という黒字忌避論が誕生することになる。ひどいのは「公益目的事業の剰余金が出た場合には、特定費用準備資金を積み立ててください」などという、意味不明の指導がまかり通っているのである。実は、「特定費用準備資金」は「適正な費用」の中に定義として入っている。したがって、すべてを特定費用準備資金として使用している状態とは、そもそも剰余金が発生していない正常な状態なのである。ゆえに、認定法第5条第6号の意味することは「公益目的事業の収入はすべて適正な費用に使うこと」という極めて常識的なものである。特定費用準備資金や資産取得資金というのは、手元の資金にラベルを貼って内外に公益目的事業に使用することをしっかりと約束するためのものである。それだからこそ、備付け資料として社会監視の対象としているのである。さらに認定法施行規則第18条第4項第3号の「正当な理由がないのに当該資金の目的である活動を行わない事実があった場合」の解釈についてはガイドラインでは、「止むことを得ざる理由に基づくことなく複数回、計画が変更され、実質的に同一の資金が残存し続けるような場合」の解釈を与え、1回は自由に変更可能なようにまでしてある。もうこれ以上は緩和策など採用する必要がないほど緩和策は最初から入れられていた(注2)。
<緩和策は例外措置ではない>
 「正規の立法趣旨」から見れば、当たり前のことなのであるが、これを「誤解の立法趣旨」からすると、黒字にしてはいけないという規制を特別に許す例外措置なのだから、特定費用準備資金の要件は非常に厳格に見すぎることになる。認定法施行規則18条第3項第4号の「積立限度額が合理的に算定されていること」について、行政手続法上の判断基準であるガイドラインにはあえて「合理的」の基準を記載せずに法人に委ねているところ、何ら判断基準がないままに「合理的でない」として特定費用準備資金の積立てを否認するようなことがまかり通っているのである。  この規制は、黒字・赤字論で言えば、むしろ公益目的事業の黒字を前提として、「収入」と「適正な費用」をバランスにするように設計されており、「儲けてはいけない」とか「黒字はダメ」などのメッセージは大いなる誤解である(図1参照)。

Ⅲ セットとしての財務三基準に対する誤解

 さらに驚くべきは、ボタンの掛け違いから、現実との相違が発生し、その都度、財務三基準+会計規制を会計関係者だけで構成された「公益法人に関する会計研究会」の手に委ね、解釈を変更し続けたことである。
 図1にあるとおり、設計時の財務三基準は、相互に連関させたものであり、ひとつのセットである。どれかひとつの解釈を変更すれば、三基準すべてに影響する関係にある。ところが、会計研究会はこれを一つひとつバラバラにしながら、「緩和策」を検討していったので、1か所を緩和すると、どこか別のところの規制強化が必要となり、結局、制度を複雑にするだけの効果しかなくなっていった。先に挙げた特定費用準備資金について何もわからないままに、ガイドラインに反する形の解釈を何度も挙げている。
 図1が示すことを比喩的に言えば、「財務三基準」とは法人の状態を示す、体温、脈拍、血圧の数値のようなものであって、それぞれが有機的に関係しているのである。人体とは異なり、異常値が自動的にシグナルとして数値計算されるようになっており、どれかひとつにそのシグナルが出れば、解決する特効薬によって必ず回復しうるようになっている。その特効薬は「正規の立法趣旨」そのものすなわち、「公益の増進」である。いずれも公益目的事業を適切な時期に適切に拡大していけば、解消するようになっている。「正規の立法趣旨」からすれば、三基準のどこでシグナルが出るかは問題ではなく、どこかに出たときには、「公益の増進」が滞っているというサインとしての役割が期待されていた。ところが、監督の現場では、そうした立法趣旨とは裏腹に、黒字・赤字論のオンパレードで、これは〇号財産ではないとか、△号財産の要件を満たしていないとか、微に入り細に入り指導を行うだけではなく、解釈までどんどん変更していく。したがって、法人にとっては「緩和策をとりました」というメッセージの裏に別のところの規制が強化されていることに気が付くはずもなく、次から次に「問題」を指摘されている。挙句の果ては「10年前の指定正味財産」の「指定」の証拠が十分ではないから、その証拠をとるようになどと、木を見て森を見ない指導がまかり通っている。

図1:内閣府令が関係する財務関係の主な認定基準

Ⅳ 収益事業と営利競合に対する誤解

 従来、公益法人が収益事業なるものを行いうるかどうかについては法的には曖昧なままであった。そこで学校法人、社会福祉法人については制度ができるときに、限定的に収益事業を規定し、法律上も収益事業が行えるようになっていた。公益法人は法的には曖昧なまま、実態が進行し、税制の観点から「収益事業」が法人税法で定義されて一定の課税がされていた。
 法人税法の「収益事業」は営利競合の観点から、業態に着目し、物品販売業など34業種が限定列挙されていた(法人税法施行令第5条第1項)。法人税法の基本通達では、「たとえその行う事業が当該公益法人等の本来の目的たる事業であるときであっても、当該事業から生ずる所得については法人税が課されることに留意する」(基本通達15-1-1)という「税法優位原則」に基づく課税がなされていた。したがって、34業種には当たらない広告業なども、広告を行う媒体の出版の事実を捉えて、出版業の「付随事業」として理解された。「その性質上その事業に付随して行われる行為」すなわち「収益事業の付随事業」も課税対象とされたのである(法人税法施行令第5条第1項括弧書き)。
 これに対して、新しい制度では、まず、法人の公益目的事業がポジティブに定義され、公益目的事業以外の残滓の事業を収益事業等と定義し、「公益目的事業の実施に支障を及ぼすおそれがないものであること」(認定法第5条第7号)という条件の下で、法的に晴れて認められたのである。したがって、認定法上の収益事業とは何かといえば、まずは公益目的事業「以外の事業」(認定法第5条第7号)としてネガティブに定義された事業の中から、「一般的に利益を上げることを事業の性格とする事業である」(ガイドライン)とポジティブに定義されたものである。したがって、いきなりすべての事業から業態に着目しポジティブに定義する法人税法上の「収益事業」とは定義も、認識の方法もまったく異なっている。さらに、公益目的事業は法人税法上の収益事業に含まれない(法人税法施行令第5条第2項)という、「認定法優位原則」に変わっている。
<公益目的事業か否かの判断が先>
 ところが、法人税法の「収益事業」をポジティブに定義していることに慣れている「専門家」が、公益法人の事業全体を眺めて、まず、事業が収益事業であるか否かを判断して、その残滓を公益目的事業と考えることがまかり通っている。法人税法上の収益事業か否かは公益目的事業を認定するときの判断基準ではないのである(図2)。
 公益目的事業は学術、技芸、慈善その他の公益に関する別表各号に掲げる種類の事業であって、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するもの(認定法第2条第4号)であって、業態が〇〇業であってはならないというものではない。公益目的との手段としての事業ならば第5条各号に合致すれば、すべて公益目的事業として認定しうるものなのである。

図2:公益目的事業と収益事業の正しい判断プロセス

Ⅴ 税の優遇に対する誤解

 正規の立法趣旨からいって明らかなとおり、税制については「非営利部門は、行政部門や営利部門が持つこのような制約が少ないため、一定の分野については、柔軟かつ機動的な活動を展開することが可能である」という「民間公益セクター」(政府税制調査会答申)の発展を期待しての「理念的な促進税制」として成立した。筆者は当時、税制調査会の特別委員であり、当初は不公平税制の象徴と目されて課税強化寸前の公益法人税制が促進税制に変化する余地はとてもなかったと言ってよい。それが変わったのは「わが国経済社会の構造変化の「実像」について」(平成16年6月、税制調査会基礎問題小委員会)という報告書において、もはや政府だけでは民間の公益ニーズに対応することは不可能で、これからは「民による公共」を拡大していく必要が認識されたからに他ならない。単に不祥事が改革の契機だとしたら、不祥事をなくすような規制改革が行われたとしても、税制がこれほど促進税制として整備されることは決してなかったのであり、せいぜい課税強化が見送られる程度のことに過ぎない。
 さらに、これを実現しえたのは税制調査会において当時の内閣官房審議官が「箸の上げ下ろし」の指導をしないと明言したからでもあり、まさに「柔軟かつ機動的な活動」としての民間公益活動への期待としての税制であった。
 決め手となったのは「公益目的事業財産」と取消後の「公益目的取得財産残額」の取扱いである。一旦、「公益目的事業財産」となれば、制度的にいずれは公益に使用されることから、課税根拠もなくなり促進税制が実現した。これを担保するものはがんじがらめの規制ではなく、「公益目的取得財産残額」(別表Hで毎年計算される)であり、何かあれば、この額は別の公益法人等へ寄附されることになる。そこで計算される公益目的取得財産残額は、税の優遇額よりはるかに多額であることも制度上の重要な要素なのである。言い換えれば、税の優遇とパラレルになっている制度上の担保は公益目的保有財産残額とその寄附の可能性なのである。
<優遇のための厳格化ではない>
 ところが、「税制上の優遇措置」を担保するために、それと関連して「事細かに指導しなければならない」という風潮が明らかに蔓延している。これも「誤解の立法趣旨」に基づくものだ。最近では必要以上に「税の優遇があるから」という枕詞が用いられ、細かな指導監督の根拠となっている。これらは公益法人の活発な活動を委縮させるものであって本末転倒の誹りは免れないであろう。「税の優遇があるのだから財産管理をしっかりしなさい」というような一見問題ないようなメッセージにこそ、本質の取違えが含まれている。「法人の財産だから、しっかりとした財産管理をしなければならない」のであって、指導をするならば、法令のみを根拠にすべきである。「税の優遇」を持ち出すことで、潜在的に行政の関与を正当化してしまう。過剰な指導を行っていないかチェックすべきであろう。
 また、税の優遇を根拠に、株式公開企業と同様のガバナンスを無理やり適用し、内部統制に関わる規程類の山まで押し付けている実態がある。どんな内部統制が必要なのかはまさに法人のガバナンスに属する話である。また、公益法人は予算書の作成が義務付けられている。かつての公益法人会計基準上の「予算主義の原則」はなくなったとはいえ、企業には存在しない「予算による統制」というものも存在する。「企業ではない」という特質で制度設計がなされているのに、一部上場企業の内部統制の水準を職員数中央値5名でしかない公益法人に強いている現状もある。「柔軟かつ機動的に」動けるということは、あらかじめプログラム化されていなくても動けるという特質である。それをわざわざ膨大な数の規程類で機動力を縛らせようとしているのも、「正規の立法趣旨」と真逆の指導と言えるだろう。法令に基づく規程ならばいざ知らず、理事会で作る必要を認めていない規程類を作らせ、立入検査で次に合規性について指摘されては、理事会にやる気を失わせるだけではないのか?
 繰返しになるが、税の優遇は行政にも企業にもできない「柔軟で機動的な活動」ができるからこそ実現したのであり、税の優遇を理由に「柔軟で機動的な活動をできなくさせている実態」は大いなる誤解に基づく指導なのである。

Ⅵ 変更認定の業務量の改善を

 「正規の立法趣旨」を大いに阻害しているのが、変更認定である。現在では、膨大な書類を提出させ、数か月もかけていると聞く。認定規則で規定された分量よりも変更認定申請書類はどんどん多くなり、「柔軟かつ機動的に」動けるはずの公益法人の活動を委縮させていることもよくわかるはずである。認定規則は、内閣府公益認定等委員会に諮問され、すべての議事録を公開して認定等委員会が答申を行ってでき上がったものである。書類が多くならないことについては十分配慮していた。パブリックコメントでも同種の質問があり、しっかりと対応することが国民への約束として記載してある。それにも関わらず「誤解の立法趣旨」からどんどんと書類が増え、膨大な事務量を前にして、変更認定をあきらめた法人が多々あるとも聞いている。
 本稿をここまで読めば、「正規の立法趣旨」にかなう変更認定の在り方というのも当然方向性が見えてくるだろう。実際に東日本大震災の時には、内閣府公益認定等委員会委員長名のメッセージを発出し、公益法人による震災対応は、ほとんどが変更届出で済んだし、変更認定が必要なものも、1週間ほどで変更認定を行った(注3)。大阪府の公益認定等委員会では昨年同様の趣旨を委員会メッセージとして発出し、立法趣旨を思い起していただけるようにもした(注4)。

Ⅶ 変更認定の業務量の改善を

1 是非、公益法人を目指してほしい

 以上のように、立法趣旨の取違えが各方面に影響を与えており、新規の公益法人を目指す法人が少ないことも事実である。とりわけ、「地域を基盤としたコミュニティは、大都市への人口集中等により、その役割が低下しつつある」(行政改革本部[2002])という問題意識があったにも関わらず、地方における新規法人が年間平均で1件を割り込んでいる状況はとても看過できない。
 しかし、本稿で明らかなように、その要因のほとんどは「立法趣旨の取違え」という点から始まっているので、解決の方法もいわばわかっている。現在日本社会には様々な問題が横たわっているのであり、それを解決できるのは現場の方々の創意工夫が一番である。是非、公益法人を目指してほしい。

2 官主導の制度を真に民主導の制度に

 公益法人制度改革は、政府内では一体どこの省庁が担当するのかということも不明なままに110年も放置されていた中で、「ドン・キホーテ」たる役人たちの官主導でなければ、成し遂げられなかった部分が確かにある。
 官主導であった故に実現できたものの、官主導であるが故に、立法趣旨を取り違えることに時間はかからなかったとも言える。役人にとって、民間を見張るという機能ほど分かりやすい機能はないからである。この改革に息を吹き込むのは、民の力なくしてはあり得ないだろう。

3 行政庁職員は人格者

 筆者は内閣府の公益認定等委員会委員を2期務め、今また大阪府の公益認定等委員会委員長代理を務めている。その経験から言うと、行政庁の職員はみな人格者だ。法人に何か言われたからといって、認定や監督に影響するというようなことはありえない。ましてや「制度を十分に分かっていますか?」という当然すぎる質問に対して、制度を理解している行政庁職員ならば怒る理由がない。だからこそ、行政庁職員の言いなりになることなく、疑問があればどんどんぶつけてほしい。とりわけ、会計関係に関しては、朝令暮改、解釈曖昧ゆえに行政庁職員も口籠るだろう。「誤解の立法趣旨」のもとルールがはっきりしないからだ。また、「税の優遇があるから」「普通の企業だったら」「公平性に問題があるから」といった文言の羅列があった時には、「認定法に即して分かる言葉で言ってください」と言い返してほしい。
 「正規の立法趣旨」は公益法人の皆さんを応援しようとするものであって、邪魔をするものではない。本稿を手にして行政庁と折衝してほしい。また、迅速さに欠ける場合や申請書を受け取らない場合も、本稿を是非読ませてあげて、一日でも早く公益活動ができるように迫ってみてほしい。皆さんの一番の味方は法律の中にこそあるのだから。

[注]
(注1) 小山氏はこの誤解の典型例として『新公益法人制度はやわかり』(公益財団法人公益法人協会。平成19年4月)を挙げている。
(注2)より具体的には出口正之[2018]に詳しい。
(注3) 平成23年3月31日東北地方太平洋沖地震に関する公益認定等委員会委員長からのメッセージ。https://www.koeki-info.go.jp/commission/pdf/230331_message.pdf
東日本大震災時の変更認定・変更届に関する質問と回答。
https://www.koeki-info.go.jp/regulation/pdf/yokuarugokai.PDF
平成24年7月24日東日本大震災の復旧・復興活動に取り組まれている皆様へ。
http://www.reconstruction.go.jp/topics/120724message.pdf
(注4) 大阪府公益認定等委員会の「新型コロナウィルス感染症に関する大阪府公益認定等委員会からのメッセージ」令和2年3月23日
(内閣府ホームページ:https://www.koeki-info.go.jp/pictis-info/poa0003!show#prepage2)。

[参考文献]
小山裕[2009]「公益法人制度改革前史・序章: 改革はこう始まった」『嘉悦大学研究論集』51⑶。115-131頁。
内閣官房行政改革推進事務局[2002]「公益法人制度の抜本的改革の視点と課題」2002年4月。
税制調査会・基礎問題小委員会[2004]「わが国経済社会の構造変化の「実像」について」
https://www.cao.go.jp/zei-cho/content/20150716_27zen14kai2.pdf
出口正之[2018]『公益認定の判断基準と実務』全国公益法人協会。

執筆者Profile
出口正之(でぐち・まさゆき)
国立民族学博物館教授・総合研究大学院大学教授。大阪府公益認定等委員会委員長代理。(公社)非営利法人研究学会理事。政府税制調査会特別委員、非営利法人課税ワーキング・グループ委員、内閣府公益認定等委員会常勤委員(第1期〜第2期)などを歴任。主な著書・共著に『公益認定の判断基準と実務』(全国公益法人協会)、『フィランソロピー』(丸善)、『フィランソロピー税制の基本的課題』(公益法人協会)など。

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