定款に書いてある除名事由に当てはまるから、社員総会で決議すれば問題ない。理事会で通したのだから、手続き的にも大丈夫だろう。
法人運営の現場では、こういう判断がごく自然に行われています。ところが、その判断がそのまま慰謝料請求や損害賠償につながった事例が、実際にいくつも出ています。
法人法の施行から17年が経ち、裁判で争われたケースがかなり積み上がってきました。ここでは、法人の役員が見落としがちな3つのリスクを、実際の裁判例に沿って見ていきます。
リスク1|慣習を根拠に社員の権利を制限し、慰謝料を請求された事例
代議員制度を採用しているある公益社団法人での話です。代議員選挙で当選した会員がいたのですが、法人側はその会員に支部長の経験がないことを理由に、代議員としての地位を認めませんでした。支部長経験者でなければ代議員にはなれないという不文律がある、というのがその理由です。理事会でもこの取扱いが承認され、当該会員には社員総会の招集通知すら送られませんでした。
会員は代議員の地位確認と損害賠償を求めて裁判を起こしました。
裁判所の判断はこうです。慣習や不文律で正会員が代議員になる資格を制限するのは、定款が代議員の被選挙権を定めた趣旨を損なうものであり、法人法が社員権の行使を通じて法人の適正な統治を確保しようとした趣旨にも反する——。
法人には慰謝料50万円と弁護士費用5万円の賠償が命じられました。

そもそも公益社団法人の代議員制度には、内閣府が掲げる5つの要件があります。制度の骨格を定款で定めること、各会員の選挙権と被選挙権を等しく保障すること、などです。定款に書かれていない不文律で被選挙権を縛れば、公益認定法5条17号イが禁じる不当な条件にも引っかかりかねません。昔からそうしてきた、というだけでは通用しないのです。
リスク2|法令にも定款にもない処分をした結果、理事も監事も賠償を負った事例
ある一般社団法人で、不正な経理処理をしていた社員に対し、理事会が6か月間の社員資格停止処分を決定しました。ただ、法人法には社員資格の停止という制度が存在しません。この法人の定款にも、そうした処分の根拠は置かれていませんでした。
裁判所の判断はこうでした。社員資格の停止は、一時的であっても社員の地位に直結する処分であり、法令か定款のどちらかに根拠がなければ行えない。法令にも定款にも根拠がない以上、この処分は違法である——。しかも、責任を問われたのは代表理事と理事だけではありませんでした。理事会に出席しながらこの処分を見過ごした監事にも、法人法117条1項に基づく損害賠償責任が認められています。

理事は法令と定款を遵守する義務を負い(法人法83条)、監事は理事の職務執行を監査する義務を負います(法人法99条1項)。除名ほど重い処分でなければ理事会限りで判断して構わない、と思いがちですが、社員資格に関わる処分であれば話は別です。そして監事は、理事会の決定に黙って座っていただけでも、違法な処分を見逃したこと自体が重大な過失と評価されます。
リスク3|定款の除名事由に形式的に該当しても、除名が認められなかった事例
美術系の公益社団法人で起きたケースです。ある会員がボランティアで老人会のメンバーを展覧会に案内した際、高齢者たちがロビーのソファーに一時的に座っていたところを施設の職員に注意されました。会員はその場で法人の社員であることを名乗り、施設側の指導が厳しすぎると抗議しました。
後日、理事会はこの行為が定款に定める「法人の名誉を傷つけ、又は法人の目的に反する行為をしたとき」に当たるとして、除名議案を社員総会に提出しました。決議は可決されました。
しかし、裁判所は除名決議を取り消しています。定款に定める除名事由は形式的な文言の該当性で判断すべきではなく、除名による社員資格の喪失を正当化できるほど重大な行為であると客観的に評価できるものでなければならない、というのがその理由です。施設の職員が不快に感じたことは認められるとしても、法人の名誉を傷つけたとまではいえないし、この件で施設が使えなくなったわけでもありません。

除名は、多数決で社員たる地位を奪う処分です。法人法30条が正当事由を要求しているのもそのためで、定款の除名事由にかたちのうえで当てはまるからといって除名に踏み切れば、決議そのものが覆されるリスクがあります。除名を検討するなら、その事由は社員資格を失わせるに値するほど重いか、という視点での判断が欠かせません。
法人役員のリスク管理、何から始めるか
3つのケースに共通しているのは、善意で下した判断であっても法的な裏づけがなければ責任を問われるという点です。
慣習や不文律に頼らず、定款の規定を確認する。法令にも定款にも根拠のない処分は行わない。除名事由への該当性は文言の形式ではなく行為の実質で判断する。監事は理事会の決定を黙認するだけでは職責を果たしたことにならない。判断に迷ったときは、過去に裁判所がどう判断したかを確かめる。こうしたことを一つひとつ積み上げていくほかありません。

もっと詳しく学びたい方へ
ここで取り上げた裁判例はごく一部にすぎません。法人法施行から17年の間に蓄積された裁判例を、Q&A形式で体系的にまとめた書籍が出ています。

『裁判例から学ぶ 社団・財団の役員の責任とリスクQ&A』
弁護士 熊谷則一・弁護士 藤田太郎・弁護士 濱田真一郎 著
全国公益法人協会 刊(2026年1月)
A5判 470頁
社員の権利と紛争、社員総会や評議員会の運営、理事の責任、監事や会計監査人の責任、会計帳簿と公益目的事業まで、法人運営で出くわす論点がひと通り収められています。各設問は具体的な場面設定から始まるので、条文の解説書にありがちな取っつきにくさがありません。公益法人法務と企業法務の経験が長い弁護士3名が、分担しつつ互いに議論しながら書き上げた一冊です。
